多国籍企業日本拠点が対応すべきTPとPillar2の報告義務
近年、多国籍企業による租税回避を防ぐための国際的な取り組みが強化されています。
その中で、多国籍企業の日本拠点(日本の子会社や支店など)が日本の税法上対応しなければならない書類の提出義務として、大きく分けて以下の2つが存在します。
- 移転価格税制(TP)関連の文書提出義務(BEPS行動13)
- グローバル・ミニマム課税(Pillar2)関連の文書提出義務
TP関連の文書提出制度は2016年(平成28年)度の税制改正で導入された制度であり、Pillar2関連の文書提出制度は2023年(令和5年)度~2025年(令和7年)度の税制改正で段階的に導入された制度です。
どちらも「グローバルで活動する巨大企業グループが対象の制度」という点では共通していますが、適用される企業の規模や日本拠点が負う事務手続上の負担に違いがあります。
本記事では、両制度の提出義務の判定方法、提出すべき書類などの概要について解説します。
1. 制度の概要と背景
TP関連の義務(BEPS行動13)
「国別報告事項(CbCR)」および「事業概況報告事項(マスターファイル)」の提出を求める制度です。
多国籍企業グループのグローバルな所得配分や納税状況、経済活動の概要を各国の税務当局が把握・分析できるようにすることを目的としています。
グローバル・ミニマム課税上の義務(Pillar2)
日本の税法上は、「グループ国際最低課税額等報告事項等」および「グループ国内最低課税額報告事項等」の提供を要請する義務です。
OECD等で合意されたグローバル・ミニマム課税(Pillar2)に対応するもので、子会社等が所在する国での実効税率が基準税率(15%)に満たない場合に、親会社等の所在地国等で上乗せ課税を行う目的等で導入されました。
通常、GloBE Information Return(GIR)と呼ばれるグローバル・ミニマム課税上の情報申告制度に関して、OECDが定めたフォーマットへの記載が行われれば、日本の税法上は導入されたタイミングの違いで2つに分割されている上記2種類の報告について、まとめて対応が可能と考えられます。
2. 両制度の適用基準(対象となるグループ規模)
これらの制度はすべての多国籍企業に適用されるわけではなく、多国籍企業グループ全体の「連結ベースの収入規模」によって対象かどうかが判定されます。
- TP関連(CbCR・マスターファイル):対象連結会計年度の「直前」の連結会計年度における総収入金額が「1,000億円以上」である場合に適用。
- Pillar2関連(情報申告制度):対象連結会計年度の「直前の4対象会計年度のうち、2以上の年度」において総収入金額が「7億5,000万ユーロ以上」(日本円換算額)である大規模な多国籍企業グループが対象となります。
3. 提出が必要な場合の対応と日本拠点の義務
これらの報告書類は、多国籍企業グループの最終親会社が日本にない場合であっても、以下の概要説明の通り、その日本拠点に対して報告義務が課される場合があります。報告書類については、どちらも世界中で活動するグループ全体の財務データや組織構造を網羅する内容となります。
そのため、日本拠点単独で作成することは事実上不可能であり、グループの最終親会社(本社)が中心となって情報を集約・作成するのが実務上の前提となります。
その上で、日本拠点が日本の税務署に対して直接提出義務を負うかどうかは、国同士の情報連携の状況によって異なります。
(1) TP関連
- 国別報告事項(CbCR)
日本と多国籍企業の最終親会社所在地国との間に、「租税条約上の情報交換規定」が存在している場合、原則として最終親会社が現地税務当局に提出をすることになるため、日本拠点が本体を直接提出する必要はありません。ただしこの場合であっても、対象となる連結会計年度の末日までに、日本の税務当局に「最終親会社等届出事項」という書類の提出が必要となります。
一方、親会社の居住地国当局から日本に対して情報提供を行うことができないと認められる場合(情報交換規定が存在しない場合など)には、対象連結会計年度終了から1年以内に、日本拠点が該当書類を入手の上、所轄の税務署に対して提出をする必要があります。 - マスターファイル
マスターファイルについては、CbCRのような情報交換規定の有無による提出方法の違いは存在せず、原則として日本拠点が各最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、所轄の税務署へ直接提出(提供)する必要があります。
(2) Pillar2関連
多国籍企業の最終親会社等所在地の税務当局と日本の当局との間で自動的交換に関する合意(「適格当局間合意」)が存在する場合には、日本拠点による報告事項等の直接提出義務は免除されます。ただしこの場合は、代わりに「最終親会社等届出事項」を対象連結会計年度終了日から1年3か月(制度開始後最初の提出の場合は1年6か月以内)に提出する必要があります。
一方で、適格当局間合意が存在しない場合は、原則として日本拠点が上記の期限までに日本の税務署への提供をする必要が生じます。
(3) 留意点
TP関連の報告義務でいう租税条約上の情報交換規定と、Pillar2関連の報告義務にある適格当局間合意は、別のものと考えられます。したがって、租税条約上の情報交換規定が存在することが、日本拠点によるPillar2関連の情報申告の所轄税務署への直接提出義務を免除する根拠とはならないと考えられる点、注意が必要です。
なお、適格当局間合意については本記事を執筆している時点(2026年7月)では国税庁等日本の当局から公表されていないと考えられます。
また、TP関連とPillar2関連の両制度で「最終親会社等届出事項」という届出が存在しますが、これらは名称は同じですが、提出すべき届出書の様式はそれぞれ異なります。
4. まとめ
これまでの内容を踏まえ、日本拠点として日本の税法上対応すべきことを要約すると、以下の表のとおりとなります。
【TP関連の提出要件】
判定基準:対象連結会計年度の「直前」の連結会計年度における総収入金額が「1,000億円以上」
| 書類名 | 租税条約の情報交換規定(※) | 提出期限 | |
|---|---|---|---|
| あり | なし | ||
| 最終親会社等届出事項 | 日本拠点が提出 | 日本拠点が提出 | 「最終親会計年度」終了日まで |
| 国別報告事項(CbCR) | (提出不要) | 日本拠点が提出 | 「最終親会計年度」終了日の翌日から1年以内 |
| マスターファイル | 日本拠点が提出 | 日本拠点が提出 | 「最終親会計年度」終了日の翌日から1年以内 |
【Pillar2関連の提出要件】
判定基準:対象連結会計年度の「直前の4対象会計年度のうち、2以上の年度」において総収入金額が「7億5,000万ユーロ以上」(日本円換算額)
| 書類名 | 適格当局間合意(※) | 提出期限 | |
|---|---|---|---|
| あり | なし | ||
| 最終親会社等届出事項 | 日本拠点が提出 | (提出不要) | 「対象会計年度」終了日の翌日から1年3か月以内 (制度開始後最初の提出については1年6か月以内) |
| グループ国際最低課税額等報告事項等 | (提出不要) | 日本拠点が提出 | 「対象会計年度」終了日の翌日から1年3か月以内 (制度開始後最初の提出については1年6か月以内) |
| グループ国内最低課税額報告事項等 | (提出不要) | 日本拠点が提出 | 「対象会計年度」終了日の翌日から1年3か月以内 |
※「租税条約の情報交換規定」と「適格当局間合意」は同一ではないと考えられる点にご注意ください。
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※この記事は、投稿日現在の日本の税法に基づく一般的な取扱いを記載したものであり、特定の事実関係によっては、税法上の取扱が大幅に異なることがあり得ます。この記事の情報に基づき具体的な決定や行為を起こす際は、当事務所、または他の税務プロフェッショナルに相談することをお勧めいたします。