法人組合員に対する損失の取込制限

2018.11.26
Author:N.Suga

法人が任意組合や匿名組合等の組合員となっている場合において、責任の限度が実質的に組合財産の価額に限定されている等の要件に該当すると、組合事業から生じる損失の取り込みについて制限がかかることがあります。

今回は法人組合員に対する損失取込制限について、制度の概要をご紹介いたします

法人組合員に対する損失取込制限の概要

この制度をかなり要約すると、組合事業について業務執行を行わず責任も有限である法人組合員については、その組合事業から生じる損失について、出資金額を基礎とした一定額までしか損金算入を認めないことを定めた制度です。

具体的には、法人組合員が組合事業から生じる損失を認識する場合において、その損失額が税務上「調整出資金額」として規定される金額を超えるときは、その調整出資金額を超える部分の損失の額は、その法人組合員の所得の計算上損金の額に算入されないこととなります。

法人 組合 損失

損失取込制限の適用要件

この制度の対象となるのは、以下の3つの要件に該当する法人組合員です。

  1. 任意組合等、後述の組合等の法人組合員であること
  2. 組合事業に係る重要な財産の処分等に関する業務の執行の決定に関与する等、組合事業に係る重要な部分を自ら執行する組合員等ではないこと
  3. その組合事業等について債務を弁済する責任の限度が実質的に組合財産の価額とされている場合等、一定の場合に該当すること

有限責任事業組合契約(後述)の組合員については、上記2および3.の要件は設けられおらず、この組合の法人組合員は自動的に損失取込制限規定の対象となります。

任意組合を例にすると、一般的には以下のようなストラクチャーにおける、業務執行社員ではない法人組合員が今回ご紹介する制限規定の対象となると考えられます。

法人 組合 ストラクチャー

なお個人組合員は今回ご紹介している規定の対象とはされませんが、個人組合員用の制限規定が別途設けられています(個人には何も制限がないというわけではありません)。

対象となる組合契約

法人組合員に対する損失取込制限規定は、法人が以下に掲げる組合の組合員に該当する場合に検討が必要となります。

  1. 民法上の組合契約(任意組合)
  2. 投資事業有限責任組合契
  3. 匿名組合契約
  4. 有限責任事業組合契約
  5. 外国における上記に類する契約

上記はいずれも、日本の税務上パススルー課税(匿名組合については厳密にはペイスルー課税)が適用されるエンティティです。

また外国における組合についても、その外国の組合が日本の税務上パススルーとして取り扱われる場合は、この規定の適用対象とされる可能性があります。

調整出資金額と組合損失の金額

法人組合員に対して損失取込制限が適用されるのは、組合事業から生じた損失の額が「調整出資金額」を超える場合です。

この調整出資金額とは、以下1と2の合計額から、3を控除した金額として計算されます。

  1. 加算:組合の計算期間のうち最新のものの終了の時までに出資をした金銭および一定の現物資産の額
  2. 加算:法人組合員が、自社の前事業年度までの各事業年度に取り込んだ組合事業に係る所得金額の合計額
  3. 控除:最新の組合の計算期間等終了時までに組合から分配等を受けた金銭および一定の現物資産の額

つまり調整出資金額とは、組合事業に係る税務上の簿価純資産に相当する金額と言えます。

上記の調整出資金額と比較される組合損失の金額についても、会計上の金額ではなく税務上の金額をベースとします。

したがって組合損失のうちに、税務上減価償却超過額として取り扱われる金額等が含まれている場合には、今回の損失取込制限規定の適用に係わらず損金の額に算入されませんのでご留意ください。

組合事業が明らかに欠損とならないと見込まれる場合

法人組合員に対して損失取込制限が適用されるのは、前述の通り、組合事業から生じた損失の額が「調整出資金額」を超える場合です。

しかしこれには例外があり、当該組合事業に帰せられる損益が「明らかに欠損とならないと見込まれる」場合は、当該組合事業から生じた損失が、調整出資金額を超えていない場合であっても、組合事業から生じた損失の全額が損金不算入として取り扱われます。

どのような場合が「明らかに欠損とならないと見込まれる」かについては明確には規定されておらず、当該組合事業の形態、組合債務の弁済に関する契約、損失ほてん等契約その他の契約の内容等の状況から判断することとされています。

損金不算入とされた損失額の繰り越し

法人組合員に対する損失取込制限の規定により損金不算入とされた組合損失については、翌事業年度以降に繰り越しが可能で、翌事業年度以降に組合事業から利益が発生した場合には、その利益の額を限度に繰り越された損失の額を損金に算入することが可能です。

なおこの損失額の繰り越しの適用を受けるためには、損失取込制限の適用を受けた事業年度からその繰り越した損失を損金に算入する事業年度までの各事業年度について、連続して確定申告書を提出している等一定の手続要件が設けられています。

簡単な設例

損失の取り込み制限規定と損金不算入額の繰り越し規定について、以下のような簡単な設例を用いた場合、各年の組合事業に係る所得は以下のように計算されます。

  • 組合事業への出資額1,000(全額金銭出資)
  • 組合事業が営まれる5年間のうち最初の3年間については損失、後の2年間で利益が発生
  • 「組合事業が明らかに欠損とならないと見込まれる場合」には該当しない

法人 組合 損失 計算例

この表からは以下のような点を確認することが可能です。

  1. 前半の3年については、Year 2に200、Year 3に600の損金不算入額を計上することで、損金算入額の累計額が出資額1,000までに制限される(組合事業簿価純資産額がマイナスにはならない)
  2. Year 4では発生した利益500を限度に過年度の損金不算入額を損金に算入、Year 5では残額300を損金に算入することが可能
  3. 損失の取り込み制限/繰り越し規定を受けた場合も、通算で課税される組合事業に係る所得は500となり、この規定の適用がなかった場合の組合損益の累計額と通算では一致する(オレンジ部分参照)

信託の受益者への適用

法人が組合事業の組合員である場合を中心に損失取込制限の規定を上記の通りご説明いたしましたが、法人が税務上、受益者等課税信託に該当する信託の受益者であり他の一定の要件にも該当する場合、組合に対する規定と同趣旨の損失制限規定が信託の受益者である法人に対して適用される場合があります。

個人組合員に適用される損失制限規定

個人組合員に対しても法人組合員に対する損失取込制限と類似の制限規定が適用される場合があります。

個人が適用を受ける制限規定は、法人に対して適用されるものよりも、適用を受けた場合における取り扱いが厳しくなっています。

個人に対する損失制限規定の内容については、下記をご参照ください(有限責任事業組合の個人組合員の取り扱いは除きます)。

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※この記事は、投稿日現在の日本の税法に基づく一般的な取扱いを記載したものであり、特定の事実関係によっては、税法上の取扱が大幅に異なることがあり得ます。この記事の情報に基づき具体的な決定や行為を起こす際は、当事務所、または他の税務プロフェッショナルに相談することをお勧めいたします。

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